井山 敬介
-Keisuke Iyama-
プロとして立つ
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今シーズンをもってスキークロス日本代表の土井俊幸選手(サンミリオンスキークラブ)がスキー選手を引退した。1978年生まれ。僕と同じ歳。
彼とは札幌第一高校時代、スロヴェニアスキー留学をともに過ごし、僕のスキーヤーとしての本当に大切な時間を一緒に過ごさせてもらった貴重な仲間である。
親友というより戦友と言っても良いくらいだ。彼とのすばらしい思い出はここには書ききれないほどたくさんある。ともに技術選で戦ったこともあった。
スキー選手を続けること。高校や大学を卒業したあとにプロとしてスキー選手を続けることは、このご時世では非常に厳しい。
プロスポーツ選手と言ってもいろいろな選手がいるが、プロとして続けていくことができるのは本当にひと握りの選手だけである。
僕自身、スキーだけで生活ができるようになってお陰様で4回目の春を迎える。
それまでは夏季だけではあったが、ばんけいスキースクール校長の桟敷孝治さんの兄が経営している造園業、(株)和興にお世話になっていた。
朝早くから、ときには夜遅くまで現場で働き、そのあとにトレーニングという生活を、大学卒業から6年間にわたって過ごした。
今では貴重な経験をさせてもらい感謝の気持ちでいっぱいだが、当時は本当につらかった。早く山田卓也さんや柏木義之さんのようにスキーだけで生活ができるようになりたいと強く思っていた。
そんな卓也さんや義之さんも、昔はスキーだけでは生活できなかった時期があったそうだ。今シーズン、技術選で優勝した丸山貴雄もアルバイトをしながらスキー選手を続けていた。
僕と貴雄は同じ歳ということもあり「いつかは俺たちも」と(もちろん今でもそうだが)お互いを高めていた。
プロスポーツ選手を続けること。僕自身もプロスキーヤーとして活動させてもらっている。どんな競技でもプロの世界は結果がすべてであることは皆さんもご存知だろう。
このことはサラリーマンにも言えるのかもしれない。プロスポーツ選手の寿命は競技にもよるが短いようで長く、長いようで短いように思う。
僕自身は引退を考えたことがないので正直まだよくわからないが、選手が選手をやめるとき、それを決断するとき、たくさんの考えや思いがあるのだろう。
きっとまだ続けたいという気持ちを残したまま終わる選手もいるだろう。逆にもう充分やりきったという選手もいるだろう。僕自身がスキー選手を引退するときにはどんな考えや思いを描くのだろうか。
3月に入ってすぐの頃だった。彼から「引退する」と電話をもらった。
土井俊幸が引退。
僕のなかには「まだいけるんじゃないか?」という気持ちと「よくここまでがんばった! お疲れ様!」という気持ちがあった。ここ数年は種目こそ違うが時間が合えば一緒にトレーニングもしてきた。夢や目標をよく語り合った。
何より高校時代、スロヴェニアでのスキー留学時代をともに過ごしてきて、彼のスキーのうまさ、身体能力の高さを、僕は誰よりも知っている。
だが一方で、プロスポーツ選手になるために彼もたくさんのアルバイトを経験している。ピザの配達、引っ越し屋、タクシーの無線センター、ゴルフ場……。
引退するまでの数年間は福岡県にある(株)サンミリオンに所属し選手を続けてきた。
アルバイト時代からプロ意識は高かったように思うが、同社に所属しスキーに専念できる環境を手に入れてからの彼は、より一層スキーに対する意識が高くなったように感じた。
ここまで本当に死に物狂いでがんばってきた彼を、僕は知っている。
先日、久しぶりに彼と会った。引退を決めてから会うのは初めてだった。僕が予想していた以上に、彼からはスキーに対する未練はまったくと言っていいほど感じなかった。
代わりに、あれだけスキーに対する熱い気持ちを持っていた彼から感じたものは、これから始まる(株)サンミリオンでの仕事に対する期待と不安、それからちょっとサラリーマンになることを楽しみにしている気持ちだった。しっかりとした目標も語っていた。とても刺激になり、なんだかすごくうれしかった。
プロスキーヤーからサラリーマンへと変身した土井俊幸。彼から伝わるエネルギーはサラリーマンになっても変わることはなかった。土俵が変わっても、土井俊幸は僕のなかでいつまでもすばらしい戦友だ。
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2010年6月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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