井山 敬介
-Keisuke Iyama-
雪育のススメ
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今シーズンもすでに始まったが「雪が少ない」というなんともスキーヤーにとっては寂しい言葉が全国各地から聞こえてくる。
1月に入りシーズンも中盤になりかけているが、何かもの足りなさを感じているのは僕だけではないだろう。
レッスンのときにはなるべく「雪が少ない」だとか「雪がない」というマイナスイメージになる言葉は使わないようにしているが、ここまでくると気をつけていてもついつい知らず知らずのうちに口にしている。
実はそんな雪不足のなかでも敏感にアンテナをぐるぐるとまわし、情報が入ればすぐにすっ飛んで行っては条件の良い雪のなかを滑らせてもらっている。
おかげさまで面ツル&オーバーヘッドの新雪パウダーのなかをもう何本もメイクさせてもらった。
だけど何かもの足りない。なぜだろう。
明らかに雪の少ない街や雪山、そして頬にあたる風のぬるさからくるものなのかもしれない。
冬のすっきりとしたあの独特な寒さがまったくないわけではないが、空気がぬるい日がここ最近多いように感じる。
今まではいつもの冬の寒さに愚痴ることもあったわが家の奥さんも「冬なら寒くなれ!」と愚痴っているくらいだ。
スキーというすばらしいスポーツを楽しみ、そしてその楽しさを伝えていくのは、絶対に雪がなければできないことである。
今年も冬休み中の子供たちと一緒に滑る時間があった。
毎年のように考えることだが、初めてスキーをする子供たちにスキーという最高の遊びをどう伝えていくか? 僕が考えるスキーというのは、やはり雪遊びの延長線上にあるのだ。
いきなりスキー場に行ってスキー板を身につけリフトに乗り、「は~い! スキー板を三角にして滑ってみよう~」ではなく、まずは雪と触れ合って思いっきり遊ぼうぜぃ! でいきたいのだ。
雪が少なくなり雪の存在がどんどんまわりから離れてしまうと、雪と触れ合う雪遊びの延長線上にスキーがあるという僕にとって理想的な形ができなくなってくるような気がするのだ。
雪遊びの延長。僕たちが子供の頃には当たり前のように家のまわりに雪があり、〝雪かき〞でも立派な〝雪遊び〞になっていた。確実に今よりは雪の量が多かったし、気温も低かった。
一所懸命がんばって雪かきをしていた両親にとっては「おいおい、邪魔するな!」だったのだろうが、僕にとっては雪かきでもスキーでも何でも、雪のなかで遊ぶことが何よりも楽しかった。
北海道スノースポーツミーティング実行委員会で発信している「雪育(ゆきいく)」という言葉を皆さんはご存知だろうか?
この「雪育」という言葉には「雪に関係するあらゆる知恵や遊び方を知り、冬を楽しく快適に過ごす」というメッセージが含まれている。
ばんけいスキー学校で一緒に活動し、スノースポーツミーティング実行委員長でもある森脇俊文さんは「雪育という言葉からイメージできるものは幅広いが、進むべき方向ははっきりしている。
冬文化の活性化、冬という季節の価値の再認識、住んでいる人が誇らしく思える状態。こういったことが〝雪育〞という言葉をとおして日本中に発信されれば、降雪地域の冬は明るくなると思っている。
雪育の考え方が広がれば、きっとアナウンサーやキャスターの方も『今日はいい雪が降っていますね〜』なんて気の利いた言葉を言ってくれるようになるはずだよ」と言っていた。
「雪育」。
スキーヤーの皆さんの会話のなかで「雪育」という言葉が出てくることでスノースポーツや雪文化の活性化につながるかもしれない。
まわりの人に最近「雪育」って言葉があるらしいよ。と言うだけで言葉はひとり歩きしエネルギーを持つようになり、その結果、新しい価値観が生まれ、それぞれの「雪育」が成長していくのだろう。
僕自身もしっかりと雪に育てられてきたし、今でもそうである。雪まみれになり思いっきり遊ぶ。今のプロスキーヤーとしての原点は、もちろん雪遊び。
一年間のなかでたった数カ月間しか体験できない雪遊び。限られた時間のなかで世界的に見ても良い雪質でスキーという最高の遊びを楽しむことができるわが国、日本。
まずは遊ぶこと。そして最高に楽しむことが一番大切なのである。冬休み中の子供たちと全力で2本のスキー板で遊びきった僕は、雪遊びの原点に帰ることができた。
そして先日、雪が降り積もった自宅前の雪かきをしていたとき、3歳になる息子と一緒に雪まみれになりながら「やっぱり雪って良いな!」と息子に話しかけてみた。
僕の言葉もまったく耳に届かないほど、息子は雪の魔法にすっかり包み込まれていた。
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2009年3月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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