井山 敬介
-Keisuke Iyama-
ニュージーランド・スキーライフ
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雪山とスキーを求めて何かと動きまわっている僕は、韓国から帰国後、1週間だけ札幌に滞在し、すぐに南半球のニュージーランドに飛んできた。
今回のニュージーランド滞在期間は約6週間の予定。こっちに来てすでに4週間以上が経過している。残りはあと10日といったところだ。おかげさまで日曜日以外は毎日滑ることができている。
僕がニュージーランドで滞在している場所は、南島にあるクイーンズタウンという街。近隣には2カ所のスキー場があり、ひとつは車で30分ぐらいのところにあるコロネットピーク(Cornet Peak)というスキー場、もうひとつは車で50分ぐらいのところにあるリマーカブルズ(Remarkables)というスキー場だ。
今回はコロネットピークより少し標高の高いリマーカブルズに行くことが多いのだが、コロネットピークもとてもすばらしいスキー場で、冬のこの時期になると世界各国からワールドカップレーサーが集まりトレーニングをしている。今年は少し暖冬のようだけれど、どちらのゲレンデも雪質はとても良い。とくに朝一番のピステはカービングターンをするには充分すぎるぐらいだ。
クイーンズタウンは自然がいっぱいでとても気持ち良い。日の出(サンライズ)や夕日(サンセット)がきれいで、朝と夕方の山の色や空の色、雲の色がみるみるうちに変わっていく風景には感動する。
先日、朝早くスキー場へ向かっているときに、満月が山に吸い込まれるように沈んでいくのを初めて見た。サンライズやサンセットだけではなく、ムーンセットを見ることができたのだ。
そのあとは当たり前だけれど、山の間から太陽が昇ってきた。ムーンセットのあとのサンライズに、思わず子供のようにはしゃいでしまったぐらい、僕にとっては衝撃的な出来事だった。
街は山々に囲まれ、大きな湖がある。アフタースキーにその周辺をランニングするのがとても気持ち良い。走っているとまわりの美しい景色に見入ってしまい、その先はどうなっているのだろうかと、ついつい帰り道を考えずに進んでいってしまう。地元の人々や観光客など、たくさんの人たちがランニングやウォーキング、犬の散歩で湖のまわりのロードを行き来している。
クイーンズタウンという名称は、その自然の美しさが「ヴィクトリア女王」にふさわしいところに由来するらしい。
また同地は、バラエティに富んだアウトドアスポーツの拠点になっていて、冬のスキーはもちろんヘリスキー、スカイダイビング、バンジージャンプ、キャニオンスウィング、パラグライディング、熱気球、湖や川でのジェットボート、ラフティング、釣りなどが楽しめ、そのほかにもスケートパークやゴルフ、乗馬もできる。
しかも、クイーンズタウンはバンジージャンプ発祥の地としても有名で、よくそんな危険なスポーツを思いつき、実行したなと思いつつも初めて飛んだ人はすごいなと感心する。
実は16歳のときに一度だけヨーロッパでバンジージャンプを体験したことがある。飛ぶ前のドキドキ感と「スリー・トゥー・ワン・バンジー!」の声は今も記憶に残っている。そして今、スカイダイビングをしてみたくなっている僕がいるのだが、はたして残り10日の間にチャレンジできるだろうか。
僕が海外へ出かけるときにはスキーがメインになるので、スキーのできる環境のなかでということが前提なんだけれど、ここまでアクティビティがそろっている街は世界的に見てもめずらしいような気がする。そういう意味でもここクイーンズタウンは本当にすばらしいところだと思う。美しい自然をきれいなまま残しつつ、人間が豊かになれるようにそのすばらしい自然を活用して、身体を使って遊ぶことの大切さを教えてくれる。
コロネットピーク、リマーカブルズの両スキー場の入場者数は毎年伸びているらしい。これは、スキー場のサービス面やコース管理のすばらしさはもちろんだけれど、スキー以外のアクティビティや街自体が充実していることもたしかに関係しているように思う。
街には日本食や中華料理、韓国料理などのレストランがあり、日本人の僕にとってはとても助かっている。ほかにも美味しいお店がたくさんあってアフタースキーの食事も存分に楽しめるのも良いところのひとつだ。とは言っても、ほぼ毎日のようにスキーに出かけている僕は肉体的に疲れ果て、いろいろなアクティビティを楽しむ余裕もなく、たまに外食はするけれど、ほとんど毎日のように自炊をしている。
やはり僕のようなスキー大好き人間にはスキーができればそれでよいってことなのだろうか?
いやいや。
ほかのアクティビティを経験することで、きっとスキーをする以外のさまざまなことを感じ、学び、すべてのことが良い経験となり、引いては人生を豊かにしてくれるのだろう。次回来るときまでにはお金を貯めて、できる限りのアクティビティに挑戦してみようかと、スキー場を眺めながらふと思った。
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2012年10月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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