井山 敬介
-Keisuke Iyama-
感謝
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『禍福は糾える縄の如し』。
成功も失敗も縄のように表裏をなして、めまぐるしく変化するものだということの例えだ。災いと幸福は表裏一体で、まるでより合わせた縄のようにかわるがわるやって来るもので、不幸だと思ったことが幸福に転じたり、幸福だと思っていたことが不幸に転じたりもする。
気がつけば、月刊スキージャーナルでコラムを書き始めてから7年が経っていた。時が経つのは本当に早い。あっという間だった。今回で最後となる僕のコラムを読んでくれた読者の皆さんに感謝の気持ちでいっぱいだ。雪上や夏のイベントでも読者の人に「スキージャーナルのコラム、楽しみにしていますよ」と声をかけてもらうこともあった。うれしかった。締め切り間近のプレッシャーから解放されるという気持ちの反面、なんだか寂しくもある。
この7年間は本当にここには書ききれないほどのできごとがあった。7年前に全日本スキー技術選手権大会で初優勝し、その次の年に2連覇。それから6年後の今年、3回目の優勝をすることができた。ケガや思うように活動ができないジレンマ、スキーヤーとしての環境の変化など、たくさんのピンチがあった。「ピンチはチャンス」とよく言うが「ピンチが大ピンチ」になることもあった。
そのなかで失敗を恐れずダメでもまた次にがんばろうと向かっていけば、「大ピンチは大チャンス」になるということもスキーに教えてもらった。スキーを通じてたくさんのすばらしい経験をさせてもらっている僕は本当に幸せ者だ。
技術選の会場が苗場から八方尾根に移り、なかなか優勝することができずにもがいていた僕は、もう技術選では優勝することはできないのかもしれないと思うこともあった。技術選をあまり好きになれなかったこともあった。しかし、そんな僕の中にかすかにあった「優勝」という希望を信じてしっかりと準備だけはしていた。
「優勝」というかすかな希望を持てたのも、たくさんの人たちに支えてもらえたからだった。スキーの活動をするための資金をサポートしていただいた企業の人たち、たくさんの応援をいただいたスキー学校の生徒の皆さん、インストラクターの仲間たち、プロスキーヤーの仲間たち、そして家族。感謝しきれないほど感謝の気持ちでいっぱいだ。
まだまだ恩返しは足りていないけれど、優勝という結果で少しでも恩返しができたことは本当にうれしく思う。これからも今まで以上にしっかりと身を引き締め、地に足をつけて精進していきたい。
今年、僕はあらためてスキーの奥深さ、技術選の魅力を経験することができた。初優勝から7年が経ち環境も経済も変化し続けているけれど、ただきれいな雪山の姿はきっと100年前から変わらず、そしてきっと100年後も変わらないのだろう。スキーには真っ白い世界のなかで風を切り斜面を滑り降りる何とも言えない解放感がある。
スキーを滑りたいという衝動はどこから来るのだろうか。365日スキーのことを考えない日はない。ネガティブなこともポジティブなことも毎日スキーのことを僕は考えている。人はすぐに理由や答を求めたがる。僕もそうなのかもしれない。ただ純粋にシンプルにスキーが好きなだけというより、スキーというスポーツに僕自身の人生を支えられているのだ。
これからもピンチがチャンスになったり、ピンチが大ピンチになって大ピンチが大チャンスになることもたくさんあるだろう。めまぐるしく変化し続けるこの世の中で変わらずに素敵な姿でいてくれる雪山。神様がくれた雪山に感謝して生きていきたい。
7年間、ありがとうございました。
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2014年8月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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