井山 敬介
-Keisuke Iyama-
時の流れに身を任せる
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「時の流れに身を任せるようにしていかないと。無理したり、焦ってしまうとだめなんだよね。」
昨年の春にDVD『BUILD』シリーズの撮影で、プロスキーヤーの児玉毅さん、カメラマン&監督のDAIGOと、僕の3人でアラスカに行ったときに、タケさん(児玉毅)がいつも言っていた言葉だ。
天候や山の状況、雪質、あらゆる条件を考慮しながら行動をしないとアラスカの雪山では大きな事故を避けることはできない。
「天候が悪くて山に行けないときはさ、なんて言うのかなぁ~、ある意味、雪山に〝まだ呼ばれてない〟ってことなんだよね。
晴れていて、雪山の条件が良かったら呼ばれてるってことだから、遠慮なく、だけど細心の注意を払って行けばいいんだよ」。
タケさんはそう言っていた。
『時の流れに身を任せる』。
うまくいくときも、うまくいかないときも、すべてを受け入れられるか。うまくいかないときにこそ、『まだ呼ばれてないんだ』というスタンスで待つことができるのか。無理をしたり、焦ってしまうと大きな事故やケガにつながる。これは、アラスカの雪山だけの話ではない気がする。
日本の雪山でもそうだし、普段のライフスタイルでもそうなのかもしれない。
今年も僕たちはアラスカに行ってきた。メンバーはDAIGOと、野沢温泉スキー場でプロのガイドとして活動しているテレマークスキーヤーの上野岳光、そして僕の3人。タケさんはグリーンランド遠征に行くため、同行してもらうことはかなわなかった。
タケさんが一緒に行けないということで少し不安もあったが、僕らは『時の流れに身を任せる』を合い言葉に、思いっきり旅を楽しむことができた。おかげさまで天気は毎日良くて晴れ続き。硬い雪から軟らかい雪まで、いろいろなシチュエーションを滑ることができた。旅の模様は、DVD『BUILD5』に収録される予定なのでぜひ見てほしい。
アラスカは本当に良い雪山がたくさんある。雪山を眺めるたびに、気持ちが「もっといける! もっといきたい!」というような感覚になる。格好良さや、気持ち良さだけを求めすぎると危険だということはわかっているが、「次はあそこに行ってみたいなぁ~、もっと奥にはもっと良い雪山があるんだろうなぁ」なんて考えるたびに、スキーヤーなら誰もが備わっているだろう雪山へのドキドキ感や、わくわく感が自分のなかで止められなくなる。
まだ帰国したばかりなのに「あ~、アラスカに行きたいなぁ」と、さっそくつぶやいてしまうぐらいなのだ。
3月に白馬八方尾根スキー場で行なわれた、第50回全日本スキー技術選手権大会。結果は7位だった。優勝をめざしていた僕にとってはとても満足できる結果ではなかった。大会中の3日間は得点が伸び悩み、とてもつらかった。「どうしたらいいのだろう?」と自問自答しながら戦っていた。
スタートを切れば無我夢中で滑ったが、ゴールをしたあとには悔しい気持ちが込み上げてきて、ときどき自分自身を抑えられないこともあった。
雪山やスキーだけではなく、普段の生活のなかでも、自分の思いどおりに事が運ばないことや、失敗することもある。そんなときは、やっぱり我慢をしなければいけないだろうし、それでもうまくいかないときには、『時の流れに身を任せる』のもいいのかもしれない。
そして、うまくいきそうだなと思ったときに、細心の注意を払って、進めばいい。そのときは、誰にも遠慮することなく。アラスカという雪山とタケさんにとても大切なことを教えてもらった。
そういえば、実はこの原稿の締め切り日がとっくに過ぎてしまっている。
「まだ呼ばれていないんだ」と時の流れに身を任せすぎて、すっかり遅れてしまった。時の流れに身を任せながら、やるときはしっかりとやらなければいけないのだ。
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2013年6月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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