井山 敬介
-Keisuke Iyama-
本とiPad
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初めてiPadの特集をテレビで観たときは正直驚いた。とんでもないものを作ってくれたじゃないかと。「この機械でインターネットやメール、ゲームもできてしまいますよ」というのは許せるけれど、「電子書籍なんてあり得ない」と思った。
雑誌や漫画を含めて本が大好きな僕は、読むのが好きだということはもちろんだが、本というもの自体が好きなのだ。書店に足を運び、本を眺めるだけでも幸せな気分になる。
本それぞれのデザイン、手に取ったときの重み、形、新品の本のページをめくるときのドキドキ感といったら言葉にできないぐらいなのだ。
皆さんもご存知でしょうiPad。インターネットやメール、そしてゲームができて、なんと言っても電子書籍というすばらしい機能がついている機械である。全国で予約待ち状態だという噂を耳にするぐらいの大人気商品。
これも時代の流れなのか。カービングスキーが当たり前になったのと同じようにiPadというものが現代人には当たり前になっていくのか。そう本気で考えてしまう。「本の本当の良さをわかってないね」とつぶやいたりもする。
と、ここまで書いておいて、実は僕もiPadを購入したひとりだ。使っているうちに、これはすばらしいと連発してしまっている始末だ。電子書籍なんてページをめくるときの音まで聞こえてくる。
わかりづらいかもしれないがカービングスキーが世の中に出現し、実際に使ってみたときと同じような衝撃を受けた。もしも電子書籍で、スキー誌ができ上がったらどうだろうか?
撮影風景などの動画や、滑りの動画が簡単に読者に届くのである。夢が広がる。もしかしたら久しぶりにスキーがしたいって思う人やスキーをやったことがない人がスキーをやってみたいと言ってくれるかもしれない。
スキー人口増加につながる。またまた夢が広がる。そして、iPadでのスキー誌が盛り上がり、逆に本になってしまうような現象が起きるかもしれない。途方もなく夢が広がる。ここまできたら希望のようなものかもしれない。
すばらしいiPad。電子書籍。世の中の経済やIT関連の時代の流れは正直よくわからないが、近年はパソコンを使うことが当たり前になり、インターネットやメール、携帯電話なんか小学生でも当たり前のように使用している時代である。
僕らが小学生や中学生の頃なんか携帯電話なんてすばらしいものはなく、好きな女の子の家に電話をするときには、相手の親が電話に出たときの対応にドキドキしていたことが懐かしい。
もちろんパソコンや携帯電話を使ったメールなんてものもなかった。ペンを片手にラブレターを書きポストに投函するのだ。
現在の少年や少女の恋愛事情はよくわからないが、携帯電話やパソコンなくして、今の時代は生きづらい世の中になっているような気がする。
僕自身もこの原稿をパソコンで書き、編集部の皆さんとは携帯電話で細かいやり取りもしている。
わが家にiPadがやってきてから、iPadを活用している時間は僕よりも家族のほうが圧倒的に多いような気がする。息子はもちろん、義理の母や僕の妻が楽しんでいる。
老若男女が楽しめるiPad。いずれ一家に一台からひとり一台の時代がくるかもしれないというより、もうすでにひとり一台あるという家庭があるだろう。
スキーのことなら詳しくわかるが、機械のことはちんぷんかんぷんに等しい僕だが、iPadは今後も限りなく進化していくのだと確信している。
先日、夏休みを利用して姪っ子が北海道の東のほうから飛行機に乗り札幌まで遊びに来てくれた。やはりiPadは子供たちにも人気だった。約1週間ぐらいの滞在中、みんなで楽しい時間を過ごした。
数日後、姪っ子から手書きの手紙が届いた。覚えたてのかわいい字でわが家の全員に2枚ずつ、ていねいに書いてくれた。とても僕はうれしかった。
パソコンや携帯電話のメールの良さを僕はわかっているつもりだ。しかし、いつまでも手書きの手紙の良さも忘れたくないと、この手紙を読んだときに、なんとも言えない感情が湧き上がってきた。
iPadと月刊スキージャーナルを手に取ってみる。もちろんiPadのすばらしさもわかっているつもりだ。しかし、いつまでも本の良さも忘れたくはないと強く思った。もうすぐこの原稿を書き終える。
ひさしぶりに近所の書店へ出かけたくなっている僕がいる。
そしてかわいい姪っ子にラブレター。
今からどんなことを書こうかなとドキドキわくわくしている僕がいる。
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2010年10月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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