井山 敬介
-Keisuke Iyama-
雪国に生まれて
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12月中旬だというのに車の運転がとっても楽である。雪道の運転を考えて、少し早めに家を出るが、目的地には少し早く到着してしまう。12月の北海道にしては本当に雪が少ない。
雪かきもまともにしていないし、車の運転も快適だなと思いつつ、物足りなく感じてしまって何だか寂しい。毎日のように空に向かって「神様どうか、北海道に恵みの雪をお願いします!」と頼んでいたくらいだ。
すると、嵐のような暴風雪が札幌にやってきた。その日はスキー連盟の研修会に出るために札幌から富良野まで移動する日だった。普通は高速道路を使えば、冬でも2時間ぐらいで到着するはずが、高速道路が通行止めになり、国道は大渋滞。あぁ、やっぱり神様のチカラはすごいなと思いつつ、冬の雪国の運転や生活はやっぱり過酷だなと、ちょっと遅れてやってきた雪にあらためて思った。
と同時に、雪国の生活が、雪とともに豊かにならないものかと考えるが、なかなか良いアイディアが浮かばない。
猛吹雪のなかでの富良野への移動は、小学2年生になった息子と一緒だった。息子は富良野で今シーズンの初滑りを計画していた。僕は研修会があるので、息子は僕の父や弟、姪っ子たちと一緒に滑ることになっていた。出発前は「あ〜早くスキーしたいなぁ」とわくわくしている様子だった。そんな息子の姿を見ていると、僕も何だかわくわくしてくる。
しかし、外は猛吹雪。富良野までたどり着けるかな? というぐらいの激しさだった。わが家を出発して国道に入ると、車がまったくといっていいほど動かないのだ。「ちょっと、神様やりすぎじゃないでしょうか?」と暗くなった空に向かって、思わずつぶやいてしまったぐらいだ。
出発して1時間ほど経った頃、助手席に座っていた息子はとうとう「家に帰りたい……」と、僕にぼそっと訴えてきた。距離的にはまだ帰れる距離だった。僕は「マジで?」と思ったが、外の猛吹雪を見て、「そりゃ帰りたくなるよなぁ。あんなにわくわくしていたのにかわいそうだな〜」と思い、いったん車を止めて、富良野にいる弟の家に電話をした。すると5年生になる姪が電話に出たので息子に替わった。
姪が「富良野に絶対来てね」みたいなことを会話のなかで息子に言ったらしく、何とか息子は行く気を取り戻してくれた。姪の言葉のパワーに驚きつつ「ありがとう、姪っ子ちゃん!」と感謝する。
いつもなら2時間の道のりを5時間もかかって何とか富良野にたどり着き、息子は安心したというより、少し疲れているように見えた。しかし、その日の夜は従兄弟たちと夜遅くまで遊んでいた。子供の体力は本当にすごい。布団に入り眠りにつく前に、「明日のスキーが楽しみだなぁ」とつぶやいていた。スキーが楽しみで楽しみで仕方がない。そんな息子の寝顔が少しうらやましくも思えた。
神様にお願いしたこともあり、前日まで積雪量が厳しい状況だったのに、暴風雪のおかげでスキー場は奇跡的に良い雪に恵まれた。今シーズンの初滑りを終えた息子は「もっと滑りたかったなぁー」と言いながら、とても満足した様子だった。次の日も1日中楽しそうに滑っていた。休憩中のホットココアがとても美味しかったらしく、僕に詳しく教えてくれた。
しかも、自動販売機に表示される「数字がそろったらもう1本」というサービスをみごとに当てるというおまけつきだったらしい。
札幌に帰ってくると家の前にはけっこうな雪が積もっていた。これは雪かきが大変だなと思いつつも、初滑りを終え、これからのシーズンを楽しみにしている息子の姿を見ると、身近に雪があることに幸せを感じた。
雪国にとって、切っても切れない雪の存在。
少し厄介者になっている『雪』の価値を、少しでも上げられるようなことはできないものか? と考えてはみるものの、やはりそう簡単には良いアイディアは浮かんでこない。そんなことを考えながら原稿を書いていると窓の外は雪どころか雨が降ってきた。
神様に「やりすぎなんじゃないでしょうか?」なんて言わなきゃよかったかな。まぁこんな年もある。息子はテレビを見ながら「あぁスキーしたいなぁ」と、昨日のことを思い出しながらつぶやいている。
雪国に生まれたことを、少しでも良かったと思えるように育ってもらいたい(窓の外は雨だけど……)
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2014年2月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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