井山 敬介
-Keisuke Iyama-
終わりのない究極
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現在、白馬八方尾根で行なわれる、全日本スキー技術選手権大会へ向かうための、苫小牧発新潟行きのフェリーの中でこの原稿を書いている。
幸いにも、今のところ冬の日本海にしては比較的穏やかな船の旅になっている。
今シーズンの北海道は本当にたくさんの雪が降っている。とくに、岩見沢市や江別市、三笠市など空知地方の地域が大変なことになっていて、災害派遣として自衛隊の皆さんが除雪作業をするほどだ。
テレビのニュースでは大雪についてのインタビューに「まるでかまくらの中にいるみたい」と困った様子で答えている女性もいた。
雪愛好家としてはあまり望ましくない『雪害』という言葉も聞こえてくるし、ものすごい寒波が来るたびにテレビ・新聞をにぎわしている。
地球温暖化という言葉はいったいどこへ行ってしまったのだろうか。
大雪で困っている方には大変申し訳ないが、大雪に大寒波と、僕たちスキーヤーにとっては待っていました! と今シーズンはおかげさまで本当に良い雪のなかで滑らせてもらっている。
ターンをするたびに「スキーヤーで良かった」と幸せを感じているのは僕だけではないはずだ。
僕が住む北海道には、シャンパンパウダースノーからグルーミングバーンまで、スキーヤーを幸せにする雪が、そして雪山がある。本当に最高なのだ。
シーズンをとおして僕のスキーの楽しみ方はたくさんある。
パウダースノーを求めてバックカントリーで雪山を登り滑り、モーグル選手とコブのなかを、グルーミングバーンでカービングターンを楽しみ、スノーボーダーの仲間と、フリースタイルスキーヤーと、アルペンレーサーと一緒にポールのなかを、という具合に、いろいろなジャンルのスキーヤー・スノーボーダーと楽しませてもらっている。
そのなかでも「全日本スキー技術選手権大会」で滑ることが、今の僕にとっては最高に楽しい。一年中、この舞台で最高の滑りをするためのことを考えている。
むしろ、さまざまなところでいろいろなジャンルのトッププレーヤーたちと一緒に雪山を楽しむことは、この大会で良い滑りをして優勝するためにあると言っても過言ではない。
スキーで勝負することは本当におもしろい。21歳から挑戦している、全日本スキー技術選手権大会。初めて出場したのは大学3年生のときだった。アルペン競技と平行しながら大会に出た。
今では信じられないと思うけれど、当時は大学卒業と同時にスキーは辞めようと思っていた。
現在ナショナルデモとして活躍中の白土晶一デモと、一緒に大学生活の思い出づくりのような軽い気持ちで技術選に出てから、50位、32位、21位、19位、17位、9位、4位、優勝、優勝、準優勝、4位、準優勝と続け、自分にとって今年で13回目の大会となる。
すべての大会にたくさんの思い出があるように、今年の技術選ではどんな思い出ができるのだろうか。
本当にたくさんの方に支えていただき、応援してもらいここまで来ることができた。もちろん、シーズンをとおして一緒に滑らせてもらっているいろいろなジャンルのトップスキーヤーの皆からも、たくさんのエネルギーとパワーをもらっている。
13年の間に結婚をして、6歳になる息子ができたことで今では家族で勝負している感覚でもある。本当に最高で最強の仲間とファミリーがいてとても心強い。
13回目の勝負となる今年の大会。スキーを通じてたくさんの経験をさせてもらい、いろいろなところを滑ってきたが、勝負するスキーほど興奮するときはない。
スタート前の緊張感と平常心。技術選特有の独特な雰囲気。もちろん、目標は『優勝』。観戦してくれているたくさんの方に興奮して喜んでもらえる滑りが、すべての種目、すべてのターンでできるように、全力で残りの日々を過ごしていきたい。
今年の大会は今までとは違った特別な大会になる。決勝が行なわれる日は、日本を襲った大震災からちょうど1年になる、2012年3月11日。
今もなお復興に向けて全力でがんばっている人たちに元気と勇気を届けられるような大会にしたいと心の底から願っている。
もうすぐ新潟港に到着する。13回目の挑戦に向けて『観てくれている人に喜んでもらえる滑りをしたい』という気持ちは、初めて技術選に出場したときからまったく変わらない。久しぶりに白馬で滑れることが今から楽しみで仕方がない。
もっともっと上手に滑りたい。
終わりのない究極へ向かって。
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2012年4月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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