井山 敬介
-Keisuke Iyama-
決断
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春になると、スキーレーサーとしての活動にピリオドを打ち、また新たな場所にスキー活動の場(たとえば技術選やコーチ業など)を求め歩き出す選手や、スキー界とはまったく異なった世界へ挑戦する選手など、かつて日本のトップで戦っていた若い選手でさえも、そういった決断をしなければならない。
過去に4度のオリンピックに出場し、ワールドカップ2位表彰台を3度も経験している佐々木明選手は、アルペンレースにいったん区切りをつけ、プロスキーヤーとしての活動の場を今まで以上に広げていく。
トップとの力の差を自分自身で理解し、その場から去る者。佐々木選手のように世界でまだまだ戦えるが、今までの経験や技術を最大限に活かすことのできる今だからこそ区切りをつけ、新たなフィールドへ挑戦する者。前者と後者の理由はどちらもまちがいではないし、どちらも正解だと僕は思う。
今はトップとの差があるが、努力してがんばれば道が開ける! けっしてあきらめない! の精神でどこまでいけるか。次のオリンピックでかならず金メダルを獲ります! 応援してください! という本物の熱いハートを持った選手はどのくらいいるのだろうか。どのくらいの選手が成功と呼ばれる結果を出すことができるのだろうか。
そんな甘い世界ではない、ということは百も承知で、金メダルを獲れる可能性がたとえ1㌫でもあるのならば、その1㌫にすべてをかけてがんばれる選手はどのくらいいるのだろうか。その世界で戦うためには当然金銭的なサポートも必要になるだろう。そんな1㌫にどれだけの人が応援してくれるのだろうか。サポートを得るために企画書を制作し企業などに相談に行ける選手はどのくらいいるのだろうか。その前にしっかりとした企画書を制作できる選手はどのくらいいるのだろうか。
企画書の制作をサポートしてくれる人は周りにどのくらいいるのだろうか。
先日、佐々木選手にとって最後のオリンピックを終えて、彼のブログにこんなことが書かれていた。
『もし若い選手がこの僕の文を目にしていてくれたならそんな皆に伝えたい。
目標設定はとにかく本当に本当に一番高いところに置くこと、そうすればきっとその生活スタイルにも食生活にもなっていくと思う。スポーツって上がったり下がったり這いつくばったり簡単に成長したり、そんなことがいとも容易く起きる。その都度、一番下から強い自分になって次のステップを踏み出すことが力だと自分は思っている。それこそが人が闘ううえでも生活していくうえでも必要なことで一番素敵なことだと思います。
スポーツをしている時間なんて人生のなかでほんの一瞬に過ぎなくて、そんな一瞬を無駄にしないためにも、大人になっていく糧としても、つねに前向きにつねに真剣につねに一所懸命に自分のなかで闘ってもらいたい。やってもやってもできないことなんかないよ。ほんのタイミングだけ。そのタイミングが合えばきっと皆にとっての成功が近い将来訪れると思う。
日本代表から落ちたとかコースアウトしてしまったとか怪我をしてしまったとか、人それぞれ本当に多くの難題や壁に打ちあたるときがあると思うけど、その都度、折れることなく腐ることなく、階段を一歩一歩登るようにやっていけば、すばらしい未来があるから。どんなときも自分自身の力を疑わず信じ切ること。それが本当に最高の未来につながると思う。
これは俺自身にはプレイしている本人には当てはまらないけれど、どんなときも最大限やってどんなときも腐らずやって、その結果たとえ自分の目標に届かなかったとしても次のステップに「さぁ、行こう!」って強い気持ちで臨むことができれば、それはある意味での成功だと僕は思います。全中やインターハイ、インカレ、あるいは国体、町民大会でもいい。どんなものでも皆が終わったあとにすぐ次のステップに向かうことができれば成功だと思うから。
若い選手にはがんばってもらいたい。スキーに限らずどんな種目の選手でもそれは同じだと思う。日本のスポーツシーン全体でがんばってる皆に成功を手にしてほしい。
僕自身これから先も満足とは何かということを生涯を通して探して追い求めていきたいと思います。日本のスポーツ界にひとりでも多くのメダリストが生まれることも心から祈っています。』
(佐々木明ブログ『Akira EMUSI Sasaki』2014年2月23日「ソチオリンピック」より抜粋)
あきらめて次のステージに行くこともけっしてまちがいではないけれど、少しでも可能性というものがあるのであれば、挑戦することもまちがいではないのかもしれない。日本代表から外れ、しかしけっしてあきらめることなくどん底から這い上がり、アルペンレーサーとしての成功を佐々木明は見せてくれた。
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2014年6月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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