井山 敬介
-Keisuke Iyama-
勇気と希望を
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このたびの東北地方太平洋沖地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた多くの方々そしてご遺族の皆様にお悔やみ申し上げます。また、新潟・長野北部地震や富士宮地震で被災された方々に重ねてお見舞い申し上げます。
3月11日。
全日本スキー技術選手権大会・準決勝。僕にとってその日最後の種目となる総合滑降のスタート前、目をつぶり自分の滑るラインをイメージしているときに建物の揺れる音とともに地面が揺れた。
地震だ……。
準決勝の全4種目を滑り終え、スキー場から宿舎に戻り、部屋に入ってテレビをつけてから目に飛び込んできた恐ろしい映像はまるで映画を観ているような、いや映画よりひどかったのではないだろうか。
ただただ同部屋の白土晶一デモとウェアを着たままの状態で「やばい……。これ、試合どころじゃないね」と固まってしまった。
技術選の応援に白馬まで来てくれていた家族や北海道の仲間たちは、翌日の夕方から長野新幹線が復旧し、震災から2日後に無事に帰宅することができた。
僕の妻は、飛行機で被災地上空を飛ぶのはとても複雑な気持ちで、機内の窓から合掌し、たくさんの命が救われるように祈ったと言っていた。僕自身もその日の新潟発のフェリーで北海道に帰ることができた。
僕自身ここ数日間は、自国のこと、自他問わず地域のこと、家族のこと、家族以外の人たちのこと……、そして今日、明日、1週間後、1カ月後、1年後、10年後のこと……、こんなにいっぺんにいろんなことを考えたことは正直今までなかった。本当になかった。気づかされたと言っても過言ではないと思う。
連日のテレビ、新聞、ラジオなどの報道に不安と憤りを感じ、それに拍車をかけるように富士宮地震がおき、大きな問題もなく平和に暮らしている札幌でさえ多少の混乱があった。
3月15日の富士宮地震のあと『どこで地震が起きてもおかしくない状況だ』と思ったと同時に、地震大国・日本だけど、絶対に地震に負けない! と言ってテレビの地震速報直後に僕は妻と大きな山用リュックに今用意できる避難道具を詰めこんだ。
確実に今までの価値観が変わってしまう状況に、スポーツ選手としては当たり前のようにやっていた、とにかくちゃんと睡眠を取り健康でいること、体力と気力と健康こそが、これからは被災からわが身を守るものだとも思った。
日が経つにつれて強い緊張感が解けるものの、不安はいまだ変わらず、それは日本国民みんなが感じていることかもしれない。何度もリピートされる津波の映像、一進一退する原発の状況は、気づかないうちに札幌にいる僕たちの心をも弱らせている。
春休みに入った息子も家にいることから、わが家ではめずらしくテレビがオフになっている時間が多くなった。しかし、今回の震災で外国の人から見た日本人のすばらしさ、救援に全力を尽くしてくれている自衛隊の方々、原発に携わっている方々、なにより被災地で懸命に生き抜いている被災者の方々に、こちらがたくさんの勇気と希望をいただいている。
僕自身は今で言う“不謹慎産業”、人を楽しませる仕事に携わっている。まだまだ自粛ムードではあるが、札幌のように無事な地域こそより元気に! 負の感情に心を奪われぬよう皆様のお役に立てたらと思っている。
500年、1000年に一度と言われる大天災。復興までにとても長い長い時間が必要になると思う。2011年3月11日をこの先も忘れず、長く支援していく気持ちを持ち続けたい。
東北は北海道から一番近い地域でとても親しみがあり、スキー仲間もたくさんいる。その粘り強さと辛抱強さ、人を思う温かさに敬服いたします。
どうか、1日も早い復旧、復興を心からお祈りいたします。
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2011年5月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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