井山 敬介
-Keisuke Iyama-
以熱治熱 イヨルチヨル
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初めて韓国を訪れたのはたしか高校3年生の2月だったと思う。アルペンレースに出場するために1週間ほど滞在した。ゲレンデは人工降雪機で作られた細かい雪がビシッと硬く締まり、スピードを出すにはとても気持ちの良いバーンだった。頬を針で突くようなカラッとした寒さを今でもはっきりと覚えている。
ソウル近郊にある空港に降り着き、そこからスキー場までバスで3時間半ぐらいの移動だった。
ハングル文字自体は知っていたけれど、車窓から見えるハングル文字だらけの看板や建物に驚いた。
それまで海外と言えば、アメリカやヨーロッパにしか行ったことがなかった僕は、何かの暗号のような文字に、意味もなく、きっと一生読めるようにはならないだろうなとバスの中でいきなりあきらめたことを覚えている。
今、僕は韓国にいる。1カ月ほどの滞在予定でこっちに来て、約2週間が経った。ソウル市内から車で40分ほどの場所にある室内スキー場で、韓国のスキーヤーの皆さんと一緒に滑らせてもらっている。
スキー場の大きさは、かつて千葉県にあった「ザウス」より小さいが、この時期にしては充分に楽しめる大きさだ。この施設は一般のゲレンデ以外にチューブ滑りで遊べるコースなどもある。
ほかにも隣接してあるゴルフの打ちっぱなし場やフットサルコート、バスケットコート、トレーニングジム、レストラン、大型ショッピングモール、ウォーターパーク(遊べるプール)などがある。目の前には大きな公園もあり、週末にはかなりの賑わいを見せる。
せっかく韓国に来ているのだから、スキー活動だけではなく韓国の文化も勉強して帰ろうと少し欲ばりになっている僕がいる。週に2回、家庭教師の先生に僕が住んでいるマンションまで来てもらい、2時間ほど韓国語と韓国の文化について教えてもらっている。
高校3年生の冬に意味もなくあきらめた韓国語を、今になって勉強している自分自身に少し驚く半面、とてもむずかしく、やっぱり無理かも……と思ってしまうこともある。
実は大学の授業で韓国語を勉強したことがあった。今から10年以上も前の話である。残念ながら当時勉強していた発音はまったくと言っていいほど出てこない。あの頃ちゃんとやっていればよかったと後悔しつつ、なんでこんなに近い国なのにこんなにも言語が違うのだろうかと、葛藤しながらもゼロから何とかがんばっている。
韓国語をしっかりと学ぶことも大切ではあるが、毎日欠かすことのできない食事は僕にとってかなり重要である。韓国はとにかくご飯が美味しい。美味しいわりに値段が安い。日本ではまだ食べたことのないメニューも多く、まだまだ美味しい食べ物があるのではないかとついガツガツしてしまう。
韓国の友人に食事に連れて行ってもらうたびに思うことは、やはり現地をよく知る人たちに案内してもらえることほど良いことはないということだ。
本当にありがたい。皆さんもご存知のとおり、基本的には辛いものが多い。とくに「チョンヤンゴチュ」と呼ばれる青唐辛子は毎回サービスで出てくるのだがとてつもなく辛い。辛いなんてものじゃなく、はっきり言って口の中が『痛い!』。そのチョンヤンゴチュを韓国の友人たちは食事中に数本食べる。すごい。
皆さんもチャンスがあればぜひ試してほしいが、まずは「ゴチュ」というそんなに辛くない青唐辛子もあるので、そちらから試したほうがよいだろうと僕は思う。友人はチョンヤンゴチュを「身体に良いし風邪をひかないからから敬介も食べろ」と促すが、一度食べた経験のある僕は、それをふたたび口にする勇気がない。
韓国に来てから、30℃以上の気温を記録する日が何日もある。道産子の僕にとっては厳しい暑さだ。今までの僕だと暑い日なのに辛い物? しかも辛さいっぱいのグツグツ煮立っている鍋? という疑問を抱いていたが、最近は食事前になると辛くて熱いものを求めている僕がいる。何とも不思議だ。どうしてこんなに辛いものが多いのか?と韓国の食文化について僕は友人に聞いてみた。
すると、彼らは『以熱治熱』(イヨルチヨル)という言葉を教えてくれた。文字どおり「熱をもって熱を制する」という意味で、辛いものを食べて暑くなって、汗をかいて、そのあと涼しくなるのが良いのだと友人は言っていた。
科学的な根拠がどうなっているのかはまったく知らないが、たしかに食べると元気になった気がする。そして、また欲しくなる。韓国の人々はまさに「イヨルチヨル」で健康を維持し、暑い夏でも元気いっぱいに過ごしている。
早いもので滞在も残り約2週間。
食も含めもっともっと韓国の文化を勉強してこれからの人生に活かしたいと欲ばりな僕がいる。
● 記事提供=月刊スキージャーナル(2012年8月号掲載)
PROFILE
井山 敬介 -Keisuke Iyama-
1978年 北海道富良野市生まれ
幼少の頃から地元・富良野の雪に戯れて育つ。アルペンレーサーとして早くから頭角を現わし、札幌第一高校時代にはナショナルチームに所属、ワールドカップに出場するなど、数々の実績を残す。
2000年から技術選に参戦。毎年着実に順位を上げ、2007年はみごとに初優勝、そして2008年には連覇。2014年に3度目の優勝を飾る。
現在も技術選でトップ争いを繰り広げるほか、子供たちへの『雪育』活動にも尽力。スキー界の振興に向けて、第一線で活躍を続けている。
全日本ナショナルデモンストレーター、ばんけいスキー学校所属
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